コラム

終活に取り組むことで、日々の生活は充実する? ─高齢者の終活と生活満足度の研究から

前回のコラム、
エンディングノートを書いた人に聞いた、終活のとらえ方、そして終活による影響
では、終活による影響をはじめ、いくつかの知見が得られました。
詳しくは、「エンディングノートを書いた人に聞いた、終活のとらえ方、そして終活による影響」をご覧ください。

さて、この研究では、あくまでもエンディングノートに取り組んでいる方にインタビューを行った結果でした。人数も8名と限られていますので、果たしてここで得られた知見が、どのぐらい広範囲の人にも当てはまるのか?という疑問が出るのはもっともなことです。
そこで、このインタビュー調査の知見を足がかりに、広くアンケート調査を行いました。

終活がに取り組むことで、日々の生活にどんな影響があったのか、また終活によって日々の生活が充実する(満足感が高まる)ためにはどうしたらいいのか?

それが、今回の研究の目的です。

終活だと思う項目、取り組んでいる項目、取り組みづらい項目、終活に取り組んでみての感想などについての質問、そして「生活満足度尺度(LSI-K)」というものを使いました。

※終活の項目については、コラム「エンディングノートの内容、終活の項目」もご参照くださいね。

ちなみに、生活満足度尺度(LSI-K)とは、現在自分の生活にどの程度満足しているのかを測るための質問です。
この尺度(心理尺度とも言います)というのは、ある知りたいこと(ここでは生活満足度)について、いろいろな質問から明らかにしていくことができる質問たちです。
というわけで、なんとなく作られたアンケートの質問、というわけではないのです。
心理学的な方法で作られて、きちんと知りたいことが明らかにできるかについても検証されたものになります。
また、結果はよくニュースであるように単純に集計するのではなく、統計学的な方法を使って分析をします。

2017年6月〜7月にかけてアンケート調査を行い、いろいろな方々にご協力をいただきました。
終活に取り組んでいる層142名(男性64名、女性78名)、終活に取り組んでいない層100名(男性45、女性55)からご回答を得ました。

なお、今回の研究では、比較的元気な、都市部在住の高齢者(65歳以上)の方々を対象としています。

細かい内容については、論文(ページ最後にリンクあり)をご参照いただければと思います。
ここでは、結果の一部について簡単にご紹介しますね。

終活が影響を与えやすいのは、ひとり暮らしの高齢者

終活に取り組んでいない層、取り組んでいる層のうち、同居人がいる・いない(ひとり暮らし)という生活スタイルに分けて、生活満足度を比べてみました。
すると、「ひとり暮らし&終活に取り組んでいない」という人たちの生活満足度が、有意に低いことがわかりました。
※有意、というのは、単なる誤差ではなく、統計学的に計算すると違いがきちんと見られた、ということです。

つまり、
終活に取り組むことで、ひとりぐらしの方も、家族など同居人のいる方々と同じ程度の生活満足度を得ることができる、生活が充実していく可能性がある
と考えることができます。

終活の影響─終活に取り組んで得られたこと

終活に取り組んでみての感想と生活満足度との関係を分析すると、終活には、「老いにともない生じる不安」に対するアプローチとして機能している、という側面が垣間見えました

  • 将来に対する不安が軽くなった
  • 家族や友人との交流・会話が増えた
  • 老後に対する知識が深まった
  • といったことが影響して、生活満足度によい影響を及ぼしている可能性がありました。

とはいえ、この結果は、データ上、上記のことが垣間見えたもので、まだまだ検証が必要でした。
終活の影響については、引き続き、そしてまた違った角度からも分析が必要でしょう。

終活の影響─そのデメリット?

同じく終活に取り組んでみての感想と生活満足度との関係からは、終活のデメリットも見えてきました。
終活には、老後に対する知識が深まることで、不安が増幅されてしまう可能性もあったのです。
特に、終活に取り組むひとり暮らしの高齢者の方にとっては、終活を頑張りすぎて、いろいろな知識をつけるに従って、逆に「強い不安や恐怖を覚える」ことが、生活満足度を下げている可能性が示唆されました。

この不安は、終活を続けることをあきらめてしまう、やめてしまうことにもつながります。
終活に関するビジネスやサービスは世の中にたくさんあります。
終活に取り組んでもらうために、高齢者の不安をふくらませるようなアピールの仕方、いわゆる不安商法のような方法は、短期的には効果があるかもしれませんが、やがて辛い終活となってしまったり、また終活が続かない、といった自体につながりかねません。
この点には、十分に注意したいものです。

終活研究の今後

このように、アンケート調査からは、今後につながる重要な示唆が得られました。
終活はひとり暮らしの高齢者に良い影響を及ぼす可能性がありますが、単にひとり暮らしと言っても状況はさまざま、それらをとらえ評価する必要性があります。

また、将来に対する不安が生活満足度と関連する結果も見えてきました。今回の調査では現在の生活に対する満足度だけを聞きましたが、今後の調査では、将来に対する見通し(未来展望)が終活によって影響を受けるのか、といった観点からの研究も必要と思われます。

これらに取り組んだ研究もその後行っていますので、後のコラム「終活はこれから先の人生に対する見方を明るく変える?─ひとり暮らし高齢者へのインタビュー調査から」もぜひご覧ください!

今回の研究の論文情報はこちら

 

博士論文にも同研究が載っています。博士論文要旨の方を、とりあえず。