コラム

終活はこれから先の人生に対する見方を明るく変える?─ひとり暮らし高齢者へのインタビュー調査から

この研究は、博士論文に掲載していますが、詳しい内容や踏み込んだ内容については今後論文化の予定がありますので、今回はその結果の一部について、ちょっとだけご紹介します。

前回のコラム、「終活に取り組むことで、日々の生活は充実する? ─高齢者の終活と生活満足度の研究から」では、終活がひとり暮らしの高齢者の方々に良い影響を及ぼしている可能性があることがわかりました。

そこで、2019年、終活に取り組んでいるひとり暮らしの高齢者の方々にお話を伺う、インタビュー調査を行いました。
今回の調査の対象は、主に首都圏在住の65歳以上で、終活に取り組んでいるひとり暮らし男女7名です。

終活に取り組むと、未来展望が開ける可能性

今回の調査では、前回のアンケート調査で使用した「生活満足度尺度」に加え、「未来展望尺度」というものを使用し、お答えいただきました。
未来展望尺度とは、ざっくり言うと、自分のこれからに対してどれだけ開けた未来をイメージしているか、というものを測る尺度です。

前回のアンケート調査により、将来に対する不安が生活満足度と関連する結果が見えてきました。
よって今回の調査では、現在の生活に対する満足度だけを聞く生活満足度だけでなく、将来に対する見通し(未来展望)が終活によって影響を受けるのか、といった観点を組み込みました。

今回の調査では、未来展望尺度の値は、終活に取り組んでいる項目が多い人ほど、有意に高くなっていることがわかりました。
ここでは専門的なお話は避けますが、相関関係、因果関係ともに有意差があります。
つまり、ひとり暮らしの方が終活にいろいろな角度から取り組むと、自らの未来に対するイメージが明るくなり、開けたものになる、ということです。
人によっては、色々とやりたいことも出てきたというお話もありました。

これは終活のとても素晴らしい可能性を示したものと思います。
とはいえ、7名の結果からのデータですので、とても限定的です。
今後、広くアンケート調査などを行い、この結果を検証する必要があります。

少しだけ豆知識、インタビュー内容の分析

インタビュー内容は、語りの文脈を重視しストーリーラインをまとめるナラティブ分析と、以前にも使用したテキストマイニングによる統計的分析を組み合わせて行いました。
簡単にご説明すると、ナラティブ分析では、分析者が一定の分析手法を使ってインタビュー内容を手作業でまとめていきます。
分析者による手作業の分析は、長らくインタビュー調査の分析方法で用いられてきましたが、どうしても分析者の主観や思い込み(バイアスといいます)が入ってしまい、分析が偏ってしまわないか?という心配もまた出てきます。
そこでわたしの研究では、さらにテキストマイニング、というインタビュー内容の言葉をコンピューターを用いて客観的に数値化して分析する方法を組み合わせています。

これによって、信頼性・妥当性をより強めた分析ができるようになります。

終活の原動力とは?─インタビュー分析・1

インタビューからは、終活のさまざまなきっかけ、目的などをお伺いできました。
人によって細かい内容にはもちろん違いがあります。
ですが、ここで共通して見いだせたことがあります。
それは、家族や近しい人の死、そして、家族・親しい人に自分自身も含めた人間の深刻な健康の問題といった実体験は、終活へとつながる大きな原動力である、ということです。

終活のきっかけとは? 自らの経験を今後に活かし、少しでも良い形にしたい、という思いがあるのかもしれません。

終活を行動に移すために必要なもの─インタビュー分析・2

とはいえ、終活をやらなくては、と思いながら、なかなか行動に移せない、というお話も一般によく聞こえてきます。
インタビューからは、終活にはどのような選択肢があるのか、どのように取り組めばよいか、といった疑問に答える場が必要とされていることが、改めてわかりました。
そして今回インタビューを行った方々の中では、多くの場合、終活講座を機会としていました。
さらに、高齢者が終活を進めていく上での課題は、前向きな知識を手に入れること。どうすれば自分の問題が解決するのか、明るい未来のための終活である必要があります。

終活講座などでは達成したことによる喜びが得られる内容(ちょっとしたことでも「取り掛かった」と 実感を得られる内容)が求められているとも言えます。
先程もお伝えしたとおり、未来展望尺度の値が高かった方々は、終活の取り組み数が多いのですが、代表的な終活である「財産の整理や記録」 「物の片付け」にしっかり取り組んでいるという特徴もあるようです。
インタビュー調査からは、このような身辺整理から、やりがいをキーワードに、さまざまな終活につなげていく仕掛けが必要となるのでは、という示唆が得られました。

 

博士論文にも同研究が載っています。博士論文要旨の方を、とりあえず。