コラム

マス・メディアにおける終活のとらえ方(2) ─ 2015〜2019年までの朝日・読売・毎日新聞記事分析

この研究は、以前ご紹介した「マス・メディアにおける終活のとらえ方(1) ─ 2017年までの朝日新聞記事分析」の継続調査として行ったものです。
調査・分析の仕方などは上記記事をご参照ください。
今回は、扱う新聞を増やし、直近5年間についてまとめました。

なお、この研究では、以下の3つの視点から、新聞記事にみられる終活の扱いと、その課題を考察しました。

  1. どのような終活の内容が取り上げられており、それは年ごとにどのように推移しているのか?
  2. 終活にからめて語られる内容にはどのようなものが顕著に見られるのか?
  3. 新聞の紙面には、記者等による記事、企業・団体等による広告、受け手側たる読者による読者投稿といっ た内容があるが、それらについて語られている内容に違いがあるか? あるとすればどのような内容なのか?

対象は、調査当時の直近5年間(2015年から2019年)の『朝日新聞』『読売新聞』『毎日新聞』 の朝刊・夕刊において「終活」という言葉を含む記事。
記事数は、全1,458 件、うち一般記事867件、広告・告知185件、読者投稿406件でした。

記事数の推移と、相続関係の話題の増加

終活記事は、2016年に一旦落ち込みはしますが、基本的には増加の流れにありました。
また、内容はやはり「葬儀」「墓」 といった葬送関係の話題が中心でしたが、それに加えて「相続」「遺言」といった相続関係の話題がより多くなっていく傾向が強く見られました。特に相続関係については、その比率が次第に増しており、2019 年の単語頻度に至って は、葬送関係を示す言葉よりも上位に「相続」「遺言」 が登場するようになっています。

2015-2019年までの、終活記事数推移2015-2019年までの、終活記事数推移

 

年ごとの頻出単語推移年ごとの頻出単語推移

 

「人生」「死」「自分」などの注目語からみる終活像

終活に関連する項目以外の単語で、本研究の分析上目立った言葉として、「人生」「生きる」「死」「死ぬ」といった生死に関する単語、そして「自分」「家族」といった人物を指す単語がみられました。
そのため、今回の分析では、これらを注目語として抽出し、係り受け等の分析を行いました。
※係り受け分析とは、2つ以上の言葉がどのように関わり文章に出てくるのかについて、すなわち言葉と言葉の関係を分析する方法です。

分析によると、終活の主体は自分自身であり、また人生の終わり、自らの死について考え ることが終活というとらえ方がありました。
しかし一方で、 人生を振り返り、棚卸しを行い、自分の人生をこれからも生きること、そのための終活であるというとらえ方もまたありました。そこには「楽しむ」のようなポジティブ な表現も出現しています。
この傾向は先行研究でも示唆されていたのですが、その後の新聞記事を扱った今回の研究では、その傾向がより濃く現れています。

よって近年では、改めて「終活とは人生をとらえ直し、これからのよりよい時間のために行うもの」といったとらえ方がなされ、広められていると言えます。

注目語の係り受け

 

注目語同士のネットワーク図注目語同士のネットワーク図

 

記事属性ごとの違い

一般記事及び広告・告知と読者投稿と では、その内容に大きな差がみられました。

一般記事における終活の話題は、 葬送関係、相続関係について述べたものが多くなっていました。
広告・告知においては、相続関係の講座が多いことが示されていました。
これらより、一般記事及 び広告・告知においては、相続関係の比重が増しており、お金の問題、家族間の問題のような課題が取り上げられがちであることが見て取れます。

読者投稿においては、相続といった話題が上ることはあまりありませんでした。
読者投稿では、以前の研究と同様に、物の片付けを示す単語(「処分」「断捨離」)が目立 ち、それぞれの投稿者の家族(「母」「夫」「娘」な ど)について語られ、かつ「日記」「年賀状」「手紙」 「本」といった日常的なものを取り上げ、これらを書くことや処分することを終活として話題にする傾向がありました。

いわゆる「終活らしい」話題が一般記事になりやすく、 広告においてもそれらの講座が紹介される一方で、 読者は物の片付けのようにより日常生活に即した形で終活を行いたいとの希望や、それらの報告を投稿しています。

このことは、2つの視点から考えることができます。

ひとつめ、もし読者目線、当事者目線から考えるならば、一般的な終活の扱いをより当事者側に合わせこんだサービス、商品、そして話題の提供を行っていくべきと言えるでしょう。
しかし、 逆を言えば、当事者目線ではあまりにも日常に寄りすぎているとも言えるのではないでしょうか。これが、もうひとつの視点です。
終活を通して人生を考えることをよしとしながらも、日常の物の処分、日記や年賀状などといったことにとどまってしまいがち、という実態が透けて見えるように思います。
とすれば、今後の人生をより良くするという中長期的な展望を踏まえた終活を実践する必 要があるのです。

まとめ

葬儀・墓、相続・遺言といった比較的大きなお金と法律が絡むものは、面倒も多く、取り組むのも大変なことです。
とはいえ、終活が日々の生活の中、その延長で考えやすいことばかりでは、これからの人生をよりよくするために取れる手段にも限りが出てきてしまいます。
それでは、これまでの終活の研究が垣間見せてくれた「サクセスフル・エイジングにつながる人生の設計に寄与するもの」という示唆にも限界が見えてしまいます。

よって、この両者の違い、サービスの 提供側や支援者側の人々と高齢者双方の意識をすり あわせていくことが必要なのではないか、そんな示唆が今回の研究では得られました。
日常的な事柄から、いかに終活につなげ、そして葬送関係や葬儀関係といったいわゆる大仕事につなげていくのか、高齢者の人生設計を踏まえた終活の内容を示していく必要がここに見えているといえます。
それによって、終活記事で見られた「自らの人生を考える」という意識に行動がつながるでしょうし、今後の終活の発展にもまたつながると言えます。

 

論文では、より多くの分析や考察を載せています。
ご興味ある方はぜひご一読ください。